精神分析療法は精神科医であったフロイトが考案した心理療法ですが、現在の臨床心理学の基礎となった画期的な発明ともいえる療法です。
意識と無意識の領域とは
フロイトの理論によると、本人の意思だけではコントロールできない無意識の領域が人間の心のほとんどを占めているということです。
また努力すれば意識化できる前意識の領域が意識と無意識の間には存在するが、意識化できない領域が心の大部分を占めていると考えました。
このような理由から、普段は表面上理性的に振る舞っている人でも、意識できない本能・衝動・欲求などに無意識の内に突き動かされているものだということです。
本人が意図しない問題が引き起こされるのは、心的エネルギー(リビドー)と言われる無意識に抑圧されている本能・衝動・欲求が原因だといわれています。
そこで精神分析療法の目的は、この心的エネルギー(リビドー)を意識化させることで、クライエントが振り回されている心の葛藤や問題を開放し自由にすることです。
- 意識…自分で今気が付いている心の部分
- 前意識…今気がついていないが、自分の努力によって意識化できる心の部分
- 無意識…抑圧されていて自分では意識化しにくい心の部分
エス、自我、超自我とは何か
フロイトはエス、自我、超自我を次のように定義しました。
エス
エスは、心的エネルギー(リビドー)における動物的な本能で、誕生したての赤ちゃんは、エスの欲求に突き動かされています。
その後、赤ちゃんは、社会からの刺激を受けて成長すると共に自我を作りだします。
超自我
超自我は、社会環境に於ける道徳・規範などの教育や両親からのしつけなどにより形成されるもので、罪悪感や良心など恥の意識のことです。
無意識と意識の双方に関連する形で超自我は存在しており、工スの本能的欲求・衝動と対立すると同時に、自我にも干渉しています。
自我
自我は、ブレーキの役割があり、エスの本能的衝動と超自我が求める規範や道徳観をバランスよくコントロールしています。
エスの持つ本能的欲求を充足させながらも現実社会で適応出来るように、人間が成長すると共に自我は形成されていくと考えました。
エス又は超自我のどちらか一方の力が強すぎると自我が不安定になるため、成熟したバランスのとれた自我を形成することが理想だとされています。
実際の精神分析療法とは
フロイトの精神分析療法では、エス・自我・超自我の3者がお互い攻めぎ合いをしている状態として、クライエントの心を分析していきます。
クライエントには、まず心がエスや超自我に支配されているのだということを理解し認識してもらうようにします。
その理解の上で、エスや超自我の働きを緩めることにより自我を強くし、自己をより深く理解できるようにすることを精神分析療法では目標としています。
次に示す例は、問題行動から見たエス・自我・超自我の状態です。- 自分に自信がなく、行動に移せず躊躇するなどの自己不全状態にある人は、超自我の心的エネルギーが強すぎて、エスを自我が過剰に抑制している状態にあるからだといわれています。
- 子どもが家庭や学校で暴力行動を繰り返し行うのは、エスの心的エネルギーが強すぎて、自我のバランスが崩れている状態にあるからだといわれています。
心理療法を実際行う場合は、クライエントの心情に対する共感や理解が必要とされます。
当時、フロイトが精神分析療法を行う際は、クライエントにソファや寝椅子に寝てもらい、フロイト自身はクライエントの頭側の見えない場所に座り、注意をそらさないようにして心理療法を行っていました。
一方、現在の精神分析療法では、対面式で座り、心理療法を行うことが多くなっています。
心理カウンセラーは、このような状態から「思い付いたことを何でも話してくださいね。」とクライエントに話しかけていきます。