心理療法で用いられるフォーカシングには、アメリカのジェンドリンとアイビイが考案した2つがあり、フォーカシング(Focusing)は「焦点付け」という意味の日本語に訳すことができます。
ジェンドリンのフォーカシング技法について
体験過程理論とは
アメリカの臨床心理学者であり来談者中心療法の考案者であったロジャーズから指導を受けた同じアメリカの臨床心理学者・哲学者であったジェンドリンは、体験過程理論を考案しました。
体験過程理論は、身体で感じる感覚をカウンセリングを行う過程で重視する技法です。
身体的に感じる感覚を言葉であえて表現することによって、心の問題や悩みを解消することに繋げることができるカウンセリング技法です。
具体的には、大学受験やスポーツの決勝大会にチャレンジする際の絞めつけられるような感覚、好きな人に告白する際の胸のドキドキ感や絞めつけ感など、人は言葉では容易に表現できないが、身体では感じることができるいろいろなフェルト・センス=感覚を心の中で感じることがあります。
フォーカシングでは、様々なフェルト・センス=感覚に焦点を絞り、そこに秘められ意味を読み解くこによって心の安定や問題解消に繋げることができるといわれています。
フォーカシング指向心理療法とは
また、ジェンドリンは、フォーカシング指向心理療法といわれる技法を考え出しました。
この療法は、カウンセリングを段階を踏んで実施していく中で体験過程を味わうことにより、クライエントが抱えている心理的な問題や症状や悩みが徐々に改善に向かっていくという実体験から考案されたものです。
クライエント自身が身体で感じる様々なフェルト・センス=感覚に触れ、それらについて言葉で表現し象徴化していく過程で、心理的な問題や障害を改善していく技法がフォーカシング指向心理療法の特徴だと言えます。
ちなみに象徴化とは、漠然とした曖昧な体験や感覚しかないクライエントに言葉で表現するという助言を与えることで、クライエント自身の中に秩序付けることを言います。
ジェンドリンのフォーカシング例
クライエントはカウンセラーに「漠然としていてはっきりと言葉で表現できないような感情を感じ心臓がドキドキしています。」と話したとします。
その場合、カウンセラーはクライエントに、「驚いたり、うれしいと感じることに注目し意識を集中させて下さい。」と伝えます。
このことにより、クライエントの心的内面にある感情の流れに焦点を当て意識を集中させて、感情に隠されている意味をはっきりとまちがいなく理解させるフォーカシングを行うことで治療効果が期待できます。
アイビイのマイクロカウンセリング技法におけるフォーカシング
長年積み重ねてきた研究成果からマイクロカウンセリング理論をアメリカの心理学者であったアイビイが考案しました。
マイクロカウンセリングは、従来のカウンセリング技法を数種類に分けて体系化を図ったものです。
この方法はカウンセリングの初心者であっても実践経験を積み重ねていくことで、段階を追って高度な心理カウンセリング技法を修得できるように工夫された訓練システムなのでカウンセラー養成方法として普及しつつあります。
またマイクロカウンセリングでのフォーカシングは、カウンセラーが意図的に焦点付けすることで、クライエントとの対話の流れを誘導していくという手法です。
具体例としては、学校内でいじめが発生している場合など、先生がその実態を把握するために生徒に話を聞いても言いずらくしている生徒も少なくありません。
このようなケースでは、先生が生徒に「クラスのこと先生よく知っているつもりだが、他に何か知らないことはあるかな?」と話を仕向けることで、自然と生徒が話しやすい状況に誘導することができます。
フォーカシングの6パターン
面接を行う際にカウンセラーが焦点を合わせるフォーカシングの主な対象は下記の6つで、例えば先生と生徒との会話例では次のようになります。
- クライエント
「あなたはどう思うの?」 - カウンセラー
「私の実体験ではこんなことがあった…」 - カウンセラーとクライエント
「一人で悩まず一緒になって考えていこうね。」 - 第三者
「具体的にどんな問題があるか教えて?」 - 問題点
「そのことは私が知っていることかな?」 - 文化、社会環境
「みんな同じだと言うけど、みんなと言うのはどこまでかな?」
上記の1項から6項の内、カウンセラーは焦点を合わせる対象を随時変更することにより、クライエントの心理的問題を、広角的に深く把握することが出来ます。
以上のようにマイクロカウンセリングでは、初心者では身に付けるのが難しい技法でも段階を踏んで修得できるためカウンセラーを効率的に育成するためのトレーニング技法として活用される場合が多くあります。