神経心理学検査の活用状況
クライエントのが抱える悩みや問題は、全てが心的原因による問題から発生しているとは限りません。
脳の各部分に機能低下や損傷などが起こり、それが原因となって精神状態が不安定になり様々な心の問題を引き起こしていることも少なくありません。
いくら心理療法を施しても、症状が改善されない場合は、脳の機能障害も考慮して治療を考えることも必要です。
なので、心理テストの一種である神経心理学検査などを行い、脳機能自体の障害は、早急に発見することが大切です。
但し、日本では神経心理学検査の活用はまだまだ行われておらず、研究もあまり進んでいません。
性格検査の一つに児童精神科医のベンダーによって考案されたベンダー・ゲシュタルト・テストがあります。
この検査方法では、9つの幾何学図形をクライエントに見せて図形を模写させ、3つの診断基準から判定を行い、脳の損傷が原因で図形認識ができない障害等を判定することができますが、全ての脳機能障害を発見できるわけではありません。
ですから、記憶や言語や図形など脳が司る各機能ごとに、それぞれ合った検査を行うのが一般的な診断方法です。
現在では最初の検査でなんらかの障害が疑われることがあれば、更に詳しく調べるために、脳科学の医療知識に基づき、体に放射線を照射しコンピュータ処理することで、体の断層面の画像が作成できるCTや、物理現象である核磁気共鳴を応用し、身体内の内部情報を画像に変換し作成できるMRIなどの医療検査機器を用いて状態を確認する方法が病症の原因を発見するのに大変効果的な手段となっています。
なお、神経心理学については、医学部で学ぶ機会が多い学問です。
脳の構造と働き
人間の脳は大脳が大部分を占めており、左右の大脳半球に分かれ、脳の重さは,女性で平均1.25kg、男性で平均1.40kgほどの重量があると言われています。
脳の外側には脳溝という多くのしわがありますが、このしわには神経細胞が密に張り巡らされています。
これは実際はしわではなく、脳の表面が山谷となり折り込まれているので、外見ではしわのように見えているだけです。
大脳皮質と呼ばれる大脳表面の厚さ数ミリの層には、多くの脳神経細胞があり、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉の4つの分かれています。
最近問題になっている認知症は、脳の重さも通常時より100g以上減少し,脳溝のしわが広がり神経細胞が減少していきます。
脳の各部位と機能・役割
次のように脳の部位により担当している機能が分かれています。
脳の部位 | 機能 | 役割・障害 |
大脳皮質 |
・見当識 ・知識 |
前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分かれており、障害が起これば失見当識、知能低下を引き起こします。 |
前頭葉 |
・思考 ・判断 |
前頭葉は脳全体の約4割を占めており、前方部にある前頭前野は、人が大きく発達した部位になり、総合的な思考・判断機能を担います。 |
頭頂葉 |
・運動 ・知覚 |
前頭葉と頭頂葉との境目の溝を中心にして前側が運動領野、後側が知覚領野になり、文章を書いたり道具を使用したりするなどの手足の運動機能を司っている部位です。 |
後頭葉 | ・視覚 | 物ごとを認知する視覚領野がある部位です。 |
側頭葉 | ・記憶 |
記憶を司る部位で、海馬とよばれる部位が側頭葉の内側にあり、神経細胞が集団しています。 もし、海馬に障害が発生すると記憶障害を引き起こし、物忘れや認知症状が現れます。 |
小脳 | ・運動調整 | 運動の調整に関係している部位です。 |
脳幹 |
・呼吸 ・体温調節 |
生命維持機能を担っている部位です。 |