ゲシュタルト療法とは何か
共に精神科医であったユダヤ系ドイツ人のフレデリック・パールズとローラ・パールズの夫妻が提唱した心理療法がゲシュタルト療法というものです。
ゲシュタルトという言葉ですが、これは形、統合、全体という意味があるドイツ語になります。
ゲシュタルト療法の目的は、この名称の意味通りで、見える形で自己欲求を表現することにより、全体的にまとまりのある方向へ、統合された人格を形成していくことです。
ゲシュタルト療法では、最終的に精神・言動共に偏らず健全でバランスの良い人格を形成することを目標にしていきます。
このゲシュタルト療法の目的である統合された人格形成とは、どんな社会環境であっても、その中で抱いた自身の感情は自ら選別し責任を取ることができる人格を獲得していくという意味です。
例を挙げれば、世の中には不快に感じる他人がいたり、不都合なことや理不尽な出来事があちらこちらで起こっていて、これらの出来事に対して憤りや怒りを覚えるこがあると思います。
しかし、これらの発生元はあくまで外部で起こっているのであって、怒りを感じたのは自分がこれらの外部環境に反応したからです。
自分の感情に責任を取るとは、感じた怒りを無理に抑えこんだり無視したりせず、その感情を一旦全て受けとめて、冷静に見つめて判断し適切に行動できるように対応するということです。
また、今すぐ恋人とLINEしたいけど、今から始まるライブ番組も絶対見たいなど、同時に相反する欲求が発生した場合に、自分にとって本当に大切なのはどちらなのか、この場で今感じている感情をしっかり認識し意識できることによって、相反している自己の欲求を適切に処理することが可能になります。
以上のようにゲシュタルト療法は、言動や感情に偏りがなく釣り合った人格の統合形成を行えるようにすることで、実際の現実社会でも自己の持つ能力や豊かな個性を実現させていくことを目指すという特徴を持った心理療法です。
実際に心理療法を行う場合は、文章表現や演技を行うことで、対立している他人や自分の心的葛藤を認識・理解して受容していくプロセスを得て、今この場で自分が抱える問題を自分自身で解決していくことを目指します。
また、マンツーマンの個人療法だけでなく、グループ療法でもゲシュタルト療法はよく用いられています。
椅子技法とは
身体的なコミュニケーションに重点を置き、言語を使用しないのがゲシュタルト療法の特徴です。
なので、その場で今、自分自身が気付いた問題を、他人に依存することなく自力で改善し解消できるような技法を活用して実施されるケースが多くあります。
よく用いられるのが数人のグループになってメンバーの自主性を優先した活動形式で実習や討議を行えるワークショップ形式の講習会で、特に、椅子(いす)技法は一番有名なゲシュタルト療法の技法の一つです。
椅子技法の実施手順
椅子技法では、イスを2脚準備し、一つはhot chairというイスでクライエントが座ります。
もう一つはempty chairという空のイスを準備し、2つの椅子を向かい合って配置します。
まず、クライエントはイスに座り、過去体験した他人との間で感じた不快な出来事や印象に残る出来事を現在のイメージとして思い浮かべ、空の椅子には問題の不快に感じた他人が座っているものとして再現して質問など対話を行っていきます。
次に、クライエントは空のイスに移動して座り、不快に感じた他人の立場になって、クライエントからの話しかけに答えていきます。
この2つの椅子を交互に行き来し、クライエントと他人の互いの立場になって、それぞれの「意見や思い」を聞いて会話を交わしていくことで、自分の心の中に互いの感情が湧き上がり、当時は気付かなかった相手の思いや感情も汲み取ることができるようになります。
この結果、心境に大きな変化を感じることにより、言動や感情共にバランスの良い統合された人格形成がなされていくとされています。
ゲシュタルトの祈り
ゲシュタルト療法を行っていたワークショップでは、考案者のフレデリック・パールスがこの心理療法の理念や信条を表現したゲシュタルトの祈りという有名な詩を作成し朗読することをよく行っていました。
原文を読むと自己中心的な感じがしますが、訳文を読むと人間的で温みを感じる詩だと思います。